新発田市民文化会館・公民館~内井昭蔵の建築

1980年に完成した新潟県新発田市に建つ「新発田市民文化会館・公民館」である。

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越後平野の北部に位置する地方都市・新発田市は江戸時代には新発田藩十万石の城下町として栄え、土地柄は古く伝統のある街である。近郊には歴史的遺産、源泉がエメラルドグリーンに変化する事で知られる月岡温泉、県内有数のコシヒカリの産地、日本酒の酒蔵等もあり、今は東京から三時間程で行く事が出来る街である。

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当時人口76.000人程が住む地方都市・新発田市で文化・学習活動の拠点造りが計画のスタートだった。コンサートや舞台演劇等が出来る1000席程のオーディトリアムと、学習活動の場となる公民館の複合文化施設が地元市民団体との協議を重ね、打合せに基づき完成した建築である。

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鉄骨鉄筋コンクリート造のオーディトリアムと鉄筋コンクリート造の公民館からなる複合文化施設は地下1階、地上5階建て、延床面積約5.650㎡で完成、施工は戸田建設である。四半円筒形と直方体を角度を振り組み合わせた形態がコンクリート打ち放しと横目地で装飾されている。

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道路の曲線に合せる様に弧を描いている部分は公民館側であり1階講堂と2階練習室がズレて重なり、積み上げられた直方体がスカイラインを模っている。建設敷地内にあった既存樹木である松も残され、39年前に植栽された樹木と共にコンクリート打ち放しの壁に彩りを添えている。

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直方体が二列に並ぶ部分は舞台上部に設けられる緞帳や舞台装置、照明装置等が収められるフライギャラリーである。細い直方体はアルミとテキスタイルで出来た緞帳が納まる場で外壁に共通するシリンダー目地が切られているが、下方の直方体には簡素な帯目地が切られている。

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曲面を描くエントランスホール・客席側の外観とは異なり、バックヤードである舞台裏側の外観は角度を変えた直方体が並んでいる。築後39年を迎える外壁は紫外線や酸性雨、埃や汚れの付着、浸透等の経年変化に伴う風化・劣化もあり、北側外壁面の変化は時の流れを感じてしまう。

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市民文化会館・公民館のエントランス上部はオーディトリアムの客席とアプローチに合せた曲面と段差が、外観に活かされている。弧を描く壁と外壁のシリンダー状の目地、エントランスドア上から左方向事務室へ続くパラペット屋根の下見板風の目地壁が建築に陰影を与えている。

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コンクリート打ち放しの構造体の中で、荒々しい円柱の地肌が来館者の肌に触れて怪我をする事を防ぐ為に、体が直接触れる様な範囲(意匠としては円柱全体)が特注のタイルで覆われている。コンクリート打ち放しのシリンダー状の目地と下見板風の目地、タイルの納まりが良く見える。

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エントランスホールは外部と同様に特注タイル貼りの象徴性を表現された円柱が2階客席の迫上がる床を支える姿を見せている。展示スペースとして利用可能なエントランスホールの床は外部床煉瓦タイルと同形の磁器質タイルを貼り込み、仕上げ材料の質感で場の違いを表現している。

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エントランスホール入口上部の2階ロビーに設置された窓から吹抜けを介して光が導かれている場は内部の中庭である。そして、階段を上った2階ロビーは回廊となり、階段で繋がれた上階ロビーからオーディトリアの客席へと導かれる。左手の曲面の壁は迫り舞台のピット部分である。

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ホールのタイル床から階段を上るとオーディトリアへ向かうロビーの床は場の領域分けを示す為に、結界の意味を込めて紫色のカーペットが敷き込まれている。弧を描く2階ロビーからエントランスホールの奥まで傾斜天井に沿って光が差し込んでいる。階段は場を変える装置である。

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弧を描く1階講堂と続く会議室コーナーの窓廻りに取り付けられた庇とシリンダー状の目地である。この目地が無ければ外壁に凹凸感も陰影のない無表情な建築になっていただろう。建築の細かな部分のディテールが積み重なり、全体としてまとまり建築が出来ると考えていた様である。

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開口部上部に付けられた庇も木造建築で考えられる庇の形態(板金・破風・軒裏)を模して型枠でコンクリート庇として造られている。垂直面の外壁と異なり、水平面の屋根庇は風雨風雪に耐えてきた分だけ経年劣化は見られるが、研ぎ出し仕上げの様で経年変化を醸し出している。

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市民文化会館・公民館の建築全体にインパクトを与え、存在感を示した「目地」である。鋼材や工業材料等とは異なり、コンクリートの型枠は人間の技能に委ねられる部分が多大に残されており、建築家・内井昭蔵にとって目地は、空間を決める重要なディテールの一つであった。

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細かな部分のディテールが積み重なり、弧を描く外壁に刻まれたシリンダー状の目地、開口部には庇とサッシ、サッシ下部には水切りを兼ねるタイルが貼られて完成した建築の一部分である。材料の素材感や持ち味を引き出す為にディテールに拘りながら、空間の質を高めていた。

内井は近代建築が齎した建築材料の工業化、部材部品の均質化、建築部材の納まりの単純化、建築コストの低価格化等でディテールの一律化が建築生産に携わる個人の技能を否定し、建築や住宅を単なる商品にしてしまった事を危惧していた。建築の空間に必要な納まり方や材料を選択し、その土地に根ざし、気候風土の自然に従い、深みや厚さを付けて、利用目的の機能だけの建築ではなく、付加価値のある機能を満たす建築の空間に長い息吹と生命力を与えることにディテールが不可欠であると考え続け、「ディテール」を「装飾」にまで昇華させた建築家ではないだろうか。
内井昭蔵の建築作品は独自の建築感から創造され生まれた建築である事から、類稀な建築家だった村野藤吾や白井晟一の建築作品と同じ様に、追随し継承する建築を中々見出す事は出来ない。

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